大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10733号 判決

原告 塩田勝太郎

右訴訟代理人弁護士 笠原俊也

被告 塩田富造

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 増田二郎

主文

原告の主位的請求をいずれも棄却する。

被告らは各自、原告に対し、別紙物件目録記載の建物のうち別紙図面(一)および別紙図面(二)記載の各部分を明け渡し、昭和六〇年一〇月一日から右明渡済みまで月額金七万円の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  主位的請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し、別紙物件目録記載の建物のうち別紙図面(一)(二)記載の各部分を明け渡し、かつ、同図面(一)の部分については、昭和五八年一〇月一日から明渡済みまで月額金七万円の割合による金員を、同(二)の部分については、昭和五八年一〇月一日から明渡済みまで月額金二万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  予備的請求の趣旨

1  主文第二、第三項と同旨

2  仮執行宣言

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の主位的および予備的請求を、いずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  主位的請求

1  請求原因

(一) 原告は、別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という)を所有している。

(二) 被告塩田富造(以下、被告富造という)は原告の実弟で、被告塩田義輝(以下、被告義輝という)は被告富造の息子であるところ、被告らは昭和五七年一〇月ころから、本件建物のうち別紙図面(一)記載の部分(以下、本件建物(一)部分という)において、「福寿不動産」の屋号で不動産業を営み、本件建物(一)部分および本件建物のうち別紙図面(二)記載の部分(以下、本件建物(二)部分という)を占有している。

(三) 昭和五七年一〇月以降における本件建物(一)部分の賃料相当額は月額金七万円、同(二)部分のそれは月額金二万二〇〇〇円である。

(四) よって、原告は被告ら各自に対し、所有権に基づき、本件建物(一)および(二)部分の各明渡を求めるとともに、不法行為に基づき、同(一)部分については、昭和五八年一〇月一日から明渡済みまで月額金七万円の割合による、同(二)部分については、同日から明渡済みまで月額金二万二〇〇〇円の割合による各賃料相当損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する答弁

請求原因(一)、(二)は認める。同(三)は否認する。

3  抗弁

被告らは昭和五七年九月二七日ころ、原告との間で、同日付けの契約書(乙第一号証)に基づき、本件建物(一)および(二)部分について、次のとおり賃貸借契約を締結し、これを借り受けた(以下、本件賃貸借という)。

(一) 使用目的 店舗(不動産業)

(二) 期間 昭和五七年一〇月一日から三年間

(三) 賃料 月額金七万円

4  抗弁に対する答弁

原告が被告らに対し本件建物(一)部分を賃料月額金七万円で賃貸したことは認めるが、その内容および本件建物(二)部分を賃貸したことは否認する。

なお、被告ら主張の契約書は、被告らが原告に無断で勝手にこれを作成したものである。

5  再抗弁

(一) 原告は昭和五七年九月下旬ころ、被告らに対し、一時使用の目的で本件建物(一)部分を賃貸した。すなわち、

(1) 本件建物の敷地はもと東京都がこれを所有し、原告は東京都から右敷地を借り受けて本件建物を建築所有し、二階の五部屋をアパートとして他に賃貸し、一階を原告の居住用として使用していた。

(2) 本件建物は昭和三五年七月ころ建築されたが、老朽化が激しいことや原告の老後の生活安定のため、原告はこれを取壊して一部賃貸用の中高層共同住宅(以下、新建物という)を建設することを計画し、昭和五七年八月ころから建築業者を決め、工事企画書や設計図面を作成させる一方、建築資金の融資を銀行に打診するなどして昭和五八年早々には本件建物を取壊す予定となっていた。

(3) ところが、被告らは昭和五七年九月下旬ころ、原告において本件建物を取壊し新建物を建築する予定であることを承知のうえで、原告に対し、本件建物(一)部分を取壊すまででよいから貸してほしい旨強く申し入れたため、親族でもあるところから原告はこれに応ずることとし、被告らに対し、原告において前記計画実施のため本件建物の取壊しが必要となるときまでの間一時的に使用するとの約定のもとに本件建物(一)部分を賃貸したものである。

(二) 原告はその後昭和五七年一二月一七日、東京都から本件建物の敷地の売払を受け、銀行からの融資に代え、金利の低い東京都の住宅建設資金融資のあっせん決定を得、また二階各部屋のアパート賃借人の立退きを完了したので、本件建物の取壊工事に着手することとし、前記約定に基づき、昭和五八年九月一四日被告らに対し、同月末日限り本件建物を明け渡すよう求めこれを解約した。

(三) よって、右賃貸借契約は昭和五八年九月末日の経過により終了した。

6  再抗弁に対する答弁

再抗弁(一)の冒頭部分は否認する。同(一)の(1)は認める。同(一)の(2)は知らない。同(一)の(3)は否認する。

同(二)のうち、被告らが原告から明渡請求を受けたことは認める。その余は知らない。

同(三)は否認する。

原告は、昭和五七年三月以降も本件建物二階の各部屋を通常どおり期間二年の約定で新に賃貸し、同年六月から八月にかけて本件建物につき被告らの協力のもとに首都高速道路公団の助成する防音工事を受けているから、原告が被告らとの間で本件賃貸借契約を締結した当時、原告はその主張する計画を確定的に実施する意思など有していなかった。また、被告らが原告から右計画を聞いたのは昭和五八年三月二三日ころであって、原告は被告らに対し新建物の一階に再入居させる旨約し、その明渡を求めるとともに、二階アパートの賃借人の立退交渉を依頼したため、被告らが原告のため右交渉を行いすべて立ち退かせたものである。

二  予備的請求

1  請求原因

(一) 仮に本件賃貸借契約が被告ら主張の内容であったとしても、原告は昭和五九年一二月二一日、被告らに対し、右賃貸借契約を更新しない旨の意思表示をなし、右更新拒絶には次のとおり正当事由があるから、同契約は昭和六〇年九月末日の経過をもって期間満了により終了した。

(1) 本件建物は、建築後二〇年以上も経過しており、老朽化が激しい。

(2) 原告は老齢であり、銀行を定年退職した後年金の受給と家賃収入で生計をたててきたが、今後の生活の安定のために、早急に本件建物を取壊し、新建物を建設する必要がある。

(3) 原告は昭和五七年夏以前から新建物建築を計画し、前記のとおりその準備を整えてきた。そして昭和五八年一〇月二五日建築確認を得、昭和六〇年一月一六日には再度東京都の住宅建設資金融資のあっせん決定を受けて、いつでも工事に着手できる状態にある。

(4) 本件建物二階アパートの賃借人の立退きは、既に完了しており、原告は年金以外の唯一の収入であった賃料収入はとだえ、工事に着工できないことによる原告の経済的精神的苦痛は甚大である。

(5) これに対し、被告らは原告の右計画を知りながら本件賃貸借契約を締結し、また、被告らは本件建物から徒歩数分の場所に本店をかまえ不動産業を営んでいるのであって、近隣に代替物件を求めることは極めて容易であるから、本件建物(一)、(二)各部分を使用する必要性は乏しい。

(二) よって、原告は被告ら各自に対し、賃貸借契約の終了に基づき、本件建物(一)および(二)の各部分の明渡を求めるとともに、右契約終了日の翌日である昭和六〇年一〇月一日から各明渡済みまで月額金七万円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する答弁

(一) 請求原因(一)の冒頭部分のうち、被告らが原告から更新拒絶の意思表示を受けたことは認める。その余は否認する。

同(一)の(2)ないし(4)は知らない。

同(一)の(5)のうち、被告らが原告主張の計画を知りながら本件賃貸借契約を締結したことは否認する。被告らが本件建物の近くに本店をかまえ不動産業を営んでいることは認める。その余は否認する。

(二) 原告の更新拒絶には次のとおり正当事由はないものである。

(1) 被告らの本店の店舗面積は約七坪しかなく、業務を行うには手狭すぎる。

(2) 被告らは昭和五七年一〇月本件建物において「福寿不動産麻布店」を開業して以来、売上げを順調にのばし、多額の広告費をかけて同店の存在を宣伝してきたが、麻布店をここで閉鎖することは信用を失う結果になる。

(3) 右麻布店は東京法務局港出張所の近くに所在し、近隣には多くの同業者が存在するところから、物件の情報収集および顧客の獲得の有利性の点で本件建物所在地と同程度の地理的条件を満たす代替場所を探し出すことは極めて困難である。

(4) これに対し、本件建物は前記の防音工事がなされ、新築同様であるし、原告は年間二五〇万円の年金を得、かつ、原告の養子である訴外塩田祥利宅に寄居し、その援助を受けており、経済上なんら不安のない状態にある。

また、原告の計画している新建物には被告らが店舗として借り受ける余地があって、現に原告は前述のとおり被告らに再入居を約束し、アパート賃借人の立退き交渉をさせておきながら、これが完了すると前言をひるがえし、一方的に明渡を求めているものである。

第三証拠《省略》

理由

第一主位的請求について

一  請求原因(一)、(二)は、当事者間に争いがない。

二  被告らが原告から本件建物(一)部分を賃借りしたことは、当事者間に争いがないところ、この事実と《証拠省略》によれば、被告らは昭和五七年九月二七日ころ、原告との間で本件建物(一)および(二)部分について、使用目的を店舗(不動産業)、期間を昭和五七年一〇月一日から三年間と定め、賃料は月額金七万円との約定で賃貸借契約を締結し、これを借り受けたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

なお、原告は、右賃貸借に関する契約書(乙第一号証)は被告らにおいて勝手に作成したものと主張し、原告本人尋問の結果中これに添うかのような供述部分が、また《証拠省略》にはこれを窺わせるような記載部分が存するが、《証拠省略》によれば、乙第一号証の原告の署名部分は原告の依頼により被告義輝が代書し、その名下の印影は原告の実印によるものであること、原告は右実印を手提金庫に入れて保管し他に貸与したことはないことが認められるから、原告本人の右供述部分はたやすく信用することはできないうえ、《証拠省略》の記載部分も右偽造の証拠として採用することはできず、かえって乙第一号証の原告名下の印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推認され、他にこれが偽造されたことを疑わせる証拠はない。

三  そこで、原告の再抗弁について判断する。

原告は、被告らに対し本件建物(一)部分を原告において本件建物の取壊しが必要となるまでの間一時的に使用させる約定のもとに賃貸した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

もっとも、《証拠省略》によれば、本件建物の敷地はもと東京都がこれを所有し、原告は東京都から右敷地を借り受けて本件建物を建築所有し、二階の五部屋をアパートとして他に賃貸し、一階を原告の住居として使用していたこと(この事実は、当事者間に争いがない)、原告は本件建物を取壊して新建物を建築することを計画し、昭和五七年八月から九月にかけて設計事務所に工事企画書や設計図面を作成させ、また建築業者に見積書を提出させる一方、建築資金の借入れを銀行に打診するなどしていたこと、原告はそのころから被告らに右計画を話していたこと(被告らは、原告から右計画を打ち明けられたのは昭和五八年三月以降であると主張し、《証拠省略》中にはその旨の供述部分があるが、《証拠省略》によれば、原告は本件建物二階アパートの管理を被告らに委任し、被告富造と定期的に飲食しながら同被告からその取り立てもらった家賃を受領していたこと、また原告と被告富造は毎週日曜日には原告の養子塩田祥利の経営する寿司店で酒食を共にするのが常であったことが認められ、この原告と被告富造の接触状況や同人らの間柄に照らすと、右被告らの供述は不自然であって、容易に信用できない)、原告は当時地代三か月分二万七七五三円で東京都から賃借していた前記敷地を、昭和五七年一二月一七日金一六六二万余円で売払を受けていることが認められる。しかしながら、他方、《証拠省略》によれば、原告は銀行と建築資金の融資につき折衝したが、希望の金利による借入れが実現できなかったため、一時計画の具体化を断念したこと、原告は昭和五七年三月および五月、本件建物二階の三部屋を訴外佐竹ひとみほか二名に従来通りの期間二年の約定で新に賃貸し、同年六月から八月にかけて本件建物につき首都高速道路公団の助成する防音工事の施工を受け、被告義輝は本件建物に居住している形式を整えるなどして原告が助成を受けやすいようこれに協力していること、被告らは本件賃貸借契約後、本件建物(一)部分と原告の使用部分との間に仕切りを設け、内装工事を施したところ原告はこれに異議を述べていないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によると、なるほど原告は本件建物を取壊す計画を有し、その実現のため諸準備をなしており、敷地をあえて東京都から売払を受け、また被告らは本件建物の一部を借り受けるまでには原告の右計画を承知していたのであるから、かかる事実をみると、本件賃貸借契約が一時使用を目的としたことを窺わせるものといえないではない。しかしながら、原告が東京都から敷地を買い受けたのは本件賃貸借がなされた後であり、右賃貸借契約当時は建設資金の融資が思いにまかせず原告の計画が一時頓挫をきたしていた状況にあるから、右賃貸までの原告の取壊計画に反する行動を合わせ勘案すると、当時原告は被告らとの契約に定めた三年の期間満了前の段階で確定的に右計画を具体化するまでの意思を有し、被告がこれを了解していたとみることはできず、原告が前記の計画準備を行っていたことだけから、本件賃貸借契約において原告主張の特約がなされ、かつその特約がなされるにつき合理的状況があったということはできないのであって、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

そうすると、原告の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものである。

第二予備的請求について

一  原告が昭和五九年一二月二二日被告らに対し、本件賃貸借契約を更新しない旨の意思表示をなしたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、右更新拒絶に正当事由があるか否かについて検討する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  原告は昭和四九年五月銀行を定年退職し、会社勤務を経た後、昭和五六年六月からは年額約二五〇万円の年金受給と、本件建物の家賃収入で生計を立てていること、原告はこれまで結婚歴はなく、姉の子である塩田祥利と養子縁組をなし、本件建物の一階に生活の本拠をおく一方、最近では祥利宅に寄居することもしばしばあること、

2  原告は昭和三五年七月ころ本件建物を建築したところ、築後年月を経過したことと老後の生活安定のため、塩田祥利の協力のもとに本件建物を取壊して新建物を建設することを考え、前認定のとおり諸準備を整えていること、

3  原告の右計画は建築資金が調達できなかったところから一時進展をみなかったが、原告は銀行から低利の東京都の賃貸住宅建設資金融資制度があることを聞き、再び計画を進めることとし、昭和五七年一二月一七日東京都から本件建物の敷地の売払を受けたのをはじめ、昭和五八年一〇月二五日祥利名義で新建物の建築確認を、同年一一月一八日東京都から前記建設資金融資のあっせん決定をそれぞれ得たこと、

4  この間、原告は被告らに依頼して本件建物二階のアパート賃借人と立退交渉を行わせ、昭和五八年六月末ころまでにはすべてその立退きが完了し、同年八月下旬ころ本件建物の取壊工事にかかるべく被告らに対し退去を求めたところ、被告らの拒絶にあい工事に着手できなかったこと、

5  東京都の右融資あっせんを受けるには年度内に工事に着手する必要があるため、原告はその後再び右融資あっせんの申込みを行い、昭和六〇年一月六日その決定を受け、現在に至っていること、

6  他方、被告らは東京都港区麻布一〇番三丁目一四番四号に本店をおき、本件建物(一)部分を麻布店として不動産業を営んでいるが、本件建物と本店は距離が近く、本件建物付近には東京法務局港出張所が所在し、同業者の店舗が少なくないこともあって、被告らは本件建物に店舗を設けるにつき、営業上の利便を得ていること、

7  被告らは本件建物(一)、(二)各部分を借り受ける以前に、原告からその計画を聞き及んでいたところ、原告の退去要請に対し、新建物への再入居を求め、一たん原告の承諾を得たため、前記アパート賃借人の立退きや防音工事助成に協力したものの、その後原告が再入居を拒絶したことから明渡を拒否していること、

8  被告らの本店は、木造二階建家屋の一階にあって、店舗部分は約八坪程度で執務上手狭であったが、被告らは現在これを取壊し、五階建の事務所兼居住用の建物を建築中であること、

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によると、本件建物は築後相当の年月を経過しており、原告は被告らに本件建物の一部を賃貸する以前からこれを取壊して新建物建設の計画を有し、契約前後にわたってその準備を進めた結果、同計画実行の諸条件はほぼ整った状況にいたり、この計画実現によって、原告の老後の生活安定がより一層はかられるうえ、土地の有効利用に資するものと考えられる。これに対し、被告らは本店店舗の手狭さや本件建物の地理的状況から、本件建物の営業における重要性を主張し、右認定事実によれば、被告らは本件建物明渡によって営業上不利益を受けることは否定できない。しかしながら、執務場所の手狭さは他に店舗を求め、あるいは現在被告らが建築中の建物の構造、配置を工夫することによって解消されうるし、本件建物の地理的状況の点についても、被告らの本店自体本件建物のごく近くに所在することや、被告らの不動産業者としての立場から他に適当な店舗を獲得することがさほど困難とはいえないのであって、これらの諸事情を考慮すると、被告の不利益を勘案してもなお原告が本件建物(一)、(二)の各部分の明渡を求めるにつき正当な事由があるものと認めるのが相当である。

被告らは、本件建物からの退去によって営業上の信用が害され、また、原告は一たん新建物への再入居を承諾しておきながら、これをひるがえし、被告らに対し一方的に明渡を求めることは不当であると主張するが、被告らが本件建物(一)部分に店舗を設けたのは昭和五七年一〇月であって長期の年月を経過したわけではなく、原告の新建物が建築されるのに他に店舗を移転せざるを得ないという不体裁感は単なる感情的なものにすぎない。また、再入居の約束があったのにこれが果たせない被告らの不利益は、他の手段によって填補をはかるべきであるから、被告主張の事実があるからといって、前記認定を妨げるものではない。

三  そうすると、本件建物(一)、(二)の各部分の賃貸借契約は、昭和六〇年九月三〇日の経過をもって期間満了により終了したものといわなければならない。

そして、原告は被告らに対し右建物各部分を月額金七万円で賃貸していたから、右期間満了後における同部分の賃料相当額損害金は一か月あたり金七万円とするのが相当である。

第三結論

よって、原告の主位的請求は理由がないからいずれも棄却し、同予備的請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する(なお、仮執行宣言の申立は、相当でないからこれを却下する)。

(裁判官 長野益三)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例